平成28年度「行動方針」
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はじめに
 

昨年は、私どもが成立を求め続けている「人権擁護法案」に関しては全く動きはなかったが、「障害者差別解消法」や「いじめ防止対策推進法」の成立や障がい者の雇用を義務付ける法定雇用率が改正されたこと。また、嫡出子の2分の1であった非嫡出子の相続についても民法が改正され同等になったことなど、人権確立社会に向けては大きく前進した年になった。
「障害者差別解消法」が昨年の6月に成立したことで、平成23年7月に改正された「障害者基本法」と併せて、国連の「障害者権利条約」を批准する環境が整備されたとして、批准に向けた作業を進められ、昨年の12月には国会で条約の正式承認がされ、本年の1月に批准された。

しかし、「条約」には私どもが設置を希求している「人権委員会」と同様の国家から独立した救済機関の設置が求められているが、法律案の骨子でこれに関しては既存の組織を活用するとしており、更に、「差別禁止」の義務付けでは、「一般私人間の行為や個人の思想や言動には、本法案の法的効力は及ばないものとする」としており、不備な面が多数見受けられることから、平成28年4月からの施行に向け改正を求めていく。
「いじめ防止対策推進法」についても、いじめは重大な人権侵害との文言が定義のなかに含まれていたが「人権擁護法案」に繋がるとして削除された。
また、昨今、一部団体が東京の新大久保や大阪の鶴橋などで行っている「ヘイトスピーチデモ」(増悪表現)については、この団体が京都にある朝鮮学校の周辺で行った街宣やビラ配り行動などが、「人種差別撤廃条約」の「人種差別」に該当し、違法性を帯びるとして、学校前での街宣などは業務妨害、デモの様子をインターネットに流したことは名誉棄損になるとして、不法行為による損害賠償金1,200万余りの支払いと学校の半径200M以内の街宣・ビラ配りなどを禁止する判決を京都地方裁判所が昨年の10月に出している。
現在、国内には「ヘイトスピーチ」を処罰する法律がないために、日本も批准している国連の「人種差別撤廃条約」を活用したものだが、「人権擁護法案」が成立していたならば、差別助長行為として、特別救済の対象になっていたと思われる。
憲法の言論・表現の自由との絡みから、法規制することには賛否が分かれているが、悪質なものについては、例えば、サッカーのイエローカードのように、1回目は勧告だが2回目は退場になるような、勧告に従わない場合には禁止処分を行うようなものを考えられないか。また、救済措置に関しては民事調停法などの活用が考えられないか。
いずれにしても、「人権擁護法案」と密接な関係があることであることから、「人権擁護法案」の内容をも再検討しつつ、成立を求めていく。
障がい者の人権確立については、「障害者差別解消法」の成立、「障害者権利条約」の批准、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」の成立、「障害者自立支援法」の改正、「障害者基本法」の改正、「障害者雇用促進法」の改正、など、大きく前進しており、平成25年4月からは法定雇用率が、民間企業は1.8%から2.0%に、国及び地方公共団体は2.1%から2.3%に、都道府県等の教育委員会は2.0%から2.2%に引き上げられたことで、民間企業では40万8,947.5人の対前年7.0%(26,584.0人)の増になっているが、法定雇用率の達成企業の割合は、42.7%で対前年比で4.1ポイント低下しているので、企業に雇用の促進を求めていく。
なお、現在は精神障がい者の雇用は義務化されていないが、平成30年4月からは義務化されるので、更なる法定雇用率の引き上げが予想される。
ノーマライゼーション(共生社会)の観点からインクルーシブ教育(特定の個人・集団を排除せず学習活動への参加を平等に保障する)については、今年度は昨年度に比べ若干の拡充予算になっている。
早期からの教育相談・支援体制の構築(40地域・早期支援コーディーネーター役120人の配置)、インクルーシブ教育システム構築モデル事業(65地域・合理的配慮協力員役130人の配置)、特別支援学校機能強化モデル事業(36地域・ST、OT、PT、心理学の専門家等約720人の配置)、医療的ケアのための看護師の配置(約330人)が計上されたことで、障がいのある児童・生徒が徐々にではあるが地域の学校へ就学し易くなる。
また虐待については、虐待行為者の範囲を、養護者と障がい者福祉施設の従事者及び障がい者を雇用する事業主としており、特別支援校や特別支援学級でも体罰が表面化している中、虐待の温床になっている病院や学校を加えるよう政府に働きかけるとともに、都道府県では「障害者権利擁護センター」を、市町村では「障害者虐待防止センター」の設置が定められているので、都道府県と市町村に通報状況や対応上の問題などを確認する活動を行う。
一方、女性の人権については、平成13年10月から施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV法)によって、平成14年4月からは「配偶者暴力相談支援センター」が各都道府県に設置され、業務を開始しており、平成19年7月の改正により、市町村にも配偶者暴力相談支援センターの設置が努力義務となったが、ほとんどの市町村は設置していないことから、その設置を市町村に求めていく。(平成25年3月現在、全国222施設で、その内市町村が設置する施設は49施設、目標は100施設)
なお、この支援センターへの相談件数は年々増加しており、平成23年度は8万2,099件で、平成24年に警察が対応したものでも4万3,950件(平成25年は49,533件で、摘発は4,405件で、容疑者の逮捕は3,323件)になっている。
また、これまで身体に対する暴力を受けたものに限り、保護命令を申し立てることができたのに対して、平成20年1月からは生命・身体に対する脅迫を受けた者についても、身体に対する暴力によりその生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きい場合には、保護命令を発することができることとなったほか、被害者への接近禁止命令の実効性を確保するため、接近禁止命令の発令されている間について、被害者の親族等への接近禁止命令も発することとされ、さらに、被害者への面会の要求や無言・夜間の電話等を禁止する電話等禁止命令も新設されたことで、平成24年では3,145件の申し立てがされ、2,482件について保護命令が発令された。
よって、少しでも危害を受ける可能性がある場合は、積極的に保護命令を活用して被害を防いでいく。
なお、ストーカー規制法による認知件数も平成25年では21,089件で、1,889件が摘発され、1,716件の容疑者が逮捕されている。
今後もDVやストーカー被害者の増加が予想されるが、緊急な避難場所としてのシェルター(一時避難所)が不足しているので早急に設置するよう市町村に求めていく。

1. 住環境整備
 


住環境整備については、近隣地域との差異がないかを点検しつつも、高齢者・障がい者・妊娠している女性・子どもなど、ハンディキャップがある人たちが自由に社会に参加できる活力ある地域にするため、バリアフリーは当然のこととして、ユニバーサルデザインの用具をも活用する「人権のまちづくり」を視野に入れた取り組みを展開し、ノーマライゼーションを達成する。
バリアフリーの基準としては、介助がない車イスでどこへでも自由に、安心・安全・快適に移動できるものとする。

バリアフリーについては、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の促進に関する法律」(通称、ハートビル法)と「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(通称、交通バリアフリー法)を統合した新法「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称、バリアフリー新法)が、施行されているので、この「バリアフリー新法」を積極的に活用してバリアフリーの建築物を増やしていく。
老朽化した改良住宅・公営住宅の建替えを行う際については、定期借地権などを考慮しつつも、払い下げを積極的に求めて、これを機会に「人権のまちづくり」を具現化する総合計画の策定を市町村に求めていく。
改良住宅・公営住宅の空き家がある場合には、混住化を促進するためにも、一般公募制度を活用し、また、若年層の流入を促すために、就学前の子どもを持つ世帯とか新婚家庭や妊婦については優先入居や割引の導入などの工夫を凝らして空き家をなくしていくとともに、高齢者の孤立死を防止する手立てを講じるよう、市町村に要求していく。
なお、公営・改良住宅の入居者の選定や管理を、未だに地区の自治会や同和運動団体の役員に任せていることは、不正行為や混住化を妨げる温床になることから、公営・改良住宅の管理・運営を市町村が行うよう、市町村に強く要請していく。
批判の対称になっている改良住宅・公営住宅の家賃については、応能応益制度を取り入れ、暫時、見直しを進めていくことになっているが、応能応益制度を取り入れていない市町村には、早急に制度を取り入れ、家賃の見直しをするよう要求していくとともに、家賃の滞納を市町村と協議しながら早急に改善していく。
地域の拠点である隣保館については、運営費の削減や廃止をしたいとの声が聞かれるようになってきた。
これは、隣保館が部落解放同盟の事務所に使われ、公の施設になっておらず、稼働率が低いことにも起因する。周辺地域との交流事業を活発に行っている館や広く市民が利用している館などにはそのような声は聞こえてこない。
同和地区住民だけの館とか、同和運動団体が勝ち取った施設という考えは、同和地区を特化するだけで、差別の固定化に繋がり、部落解放同盟に甘えを許すだけで、市民の理解を得ることは困難であろう。
公の施設であれば広く市民が利用できる施設にすることは当然であり、広く市民が利用することで交流が生れ、また、同和対策で住環境が改善された同和地区を眼にすることで、古い同和地区のイメージを払拭させ、差別観を変えることにもなるので、広く市民が利用できるよう、厚労省の改修費補助を積極的に活用してバリアフリー化をもすすめていく。
なお、隣保館が廃止される場合には、指定管理者制度や民間委託などを活用できないかを検討しつつも、廃止された場合には支部の役員が同和地区と行政とのパイプ役を担う、地区の世話役を積極的に務めることにする。

2. 産業基盤の確立と就労対策
 
 同和関係事業者は零細で、かつ、建築・土木関係業者が極めて多いという特定の業種に偏った特有性をもっているので、公共事業が年々減少していくこのような状況で基盤を確立することは非常に困難ではあるが、合理化や近代化を促進するとともに、生き残りのため共同化や協業化を進めていく。業種転換する場合には、政府が中小・零細業者向けセーフティーネットとして実施している各種融資制度の有効活用や各省庁のホームページで最新の情報等を有効利用するとともに、都府県や市町村と協議しながら、きめ細かな指導をしていく。
 未就労者に関しては、ハローワークを最大限活用するとともに、規制の緩和により都道府県も就労の斡旋ができるようになったことと、現在、様々な雇用対策が実施されているので都道府県と連携を図り、未就労をなくしていく。また、専門性を取得するために職業訓練や研修・講座などを有効活用し、就労を確保していく。特に、世界でも類のない高齢化社会に進んでいることで、介護福祉士やホームヘルパーが不足しているため、求人の需要が非常に高くなっていることから資格の取得を奨励していく。
 農林漁業者については、TTP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加すれば、安い農産品が輸入されることになるので、付加価値の高いものに移行するとともに、ブランド化を目指し、インターネットを活用して消費者との直販や販売店との直取引など販路の拡大を図っていく。このことは、畜産、園芸でも同様であり、漁業については、養殖なども検討していく。なお、本格的に導入された「指定管理者制度」では、すべての公共施設を指定管理者に管理をさせることになっているので、隣保館なども対象になることから、各都府県本部で設置しているNPO法人の実情に合った公共施設の指定管理者になり、雇用の促進ができるよう、都道府県・市町村と協議していく。いずれにしても、最新の情報を得るため中央本部は各省庁と、都府県本部は都府県と緊密な連携を図り、会員に最新の情報の伝達や相談を行うため、都府県本部内に相談業務を確立していく。
 また、就職差別をなくし、安定した雇用を確保するため、厚生労働省が100名以上の従業者を有する企業に設置を求めている「公正採用選考人権啓発推進員」との連携を深めていくと同時に、障がい者の雇用をも促進するため、法定雇用率(常用労働者が50人以上の民間企業は2.0%)を下回る企業については、特に積極的に雇用するよう求めていくが、抜本的に就職差別をなくすため、ILO第111号条約の「雇用及び職業における差別に関する条約」を批准し、国内法を整備するよう厚生労働省に求めていく。

3.教育・啓発
 
教育・啓発については、既に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定されており、基本計画も策定実施されているので、この法律を有効活用し、すべての都道府県、すべての市町村に、この基本計画の策定と実施を強く求めていくと同時に、現状に即した内容になっていない場合には見直しを強く求めていく。
また、基本計画には企業の役割も明記されていることから、厚生労働省が100名以上の従業員を有する企業に設置を求めている「公正採用選考人権啓発推進員」との連携を深め、企業内の人権研修の充実に努めていくとともに、未設置の企業には、推進員の設置を求めていく。
高等学校の無償化で授業料は払わなくても済むようになったが(平成26年度からは所得制限)、入学金や教材費、或いは、交通費までもが無料になるわけではない。特に私立については、世帯の年収350万未満は1.5倍、250万円未満は2倍が支払われるが、高額な入学金や授業料・教材費が必要な学校も存在することから、都道府県が実施する高等学校等奨学資金制度の一層の拡充を求めていくと同時に、これを機会に各種学校についても、対象に加えるよう要請していく。
大学・短期大学の奨学金は、独立行政法人日本学生支援機構や都道府県などでも貸出を行っており、いずれも所得制限があるものの、現在では5割を超える学生が利用しているといわれている(日本学生支援機構だけでも4割を超えている)。
日本学生支援機構の奨学金は、学力要件のある第1種(無利息)と学力要件の緩い第2種(利息付)とがあり、第2種の場合は毎月貸与する金額が、3万円・5万円・8万円・10万円・12万円と選択できるようになった。(平成25年度は有利子6万1千人、無利子は2万7千人。累計でそれぞれ101万7千人と42万6千人)また、入学時特別増額貸与奨学金も、10万円・20万円・30万円・40万円・50万円と、入学の時に必要な資金も借りることができる。
これら奨学資金制度を活用し、大学・短期大学の進学率の向上を図っていく。
また、「障がい者基本法」が改正され、インクルーシブ教育が明記され、また、昨年には「障害者差別解消法」が成立したことで、すべての学校でバリアフリー化が進み、車イスでも通学できるようになると思われるが、文部科学省により一層の促進を求めていくと同時に、児童・生徒の人権を侵害する教師の差別言動が少なからず発生していることから、教職員に対する人権研修の徹底をも求めていく。
平成20年3月に「人権教育の指導方法の在り方について」(第3次とりまとめ)が、平成21年10月には「人権教育の推進に関する取組状況の調査結果について」が文部科学省でまとめられ、各学校に配布されていることから、その実施を求めていくが、その際には、カリキュラムには最大限の関心を持ち、人権教育が計画的に実施されるよう働きかける。
また、導入することに賛否が分かれ、現在では少し後退している学校選択制度については、同和関係者が多数在籍する学校を敬遠するなど、解決しつつある同和問題を逆行させる可能性と、これまでの学校と地域の一体性が瓦解し、児童生徒が減少する地域は崩壊する可能性もあることから、導入には断固として反対していく。
なお、近年各地で始められた小・中一貫教育については、一つの中学校と複数の小学校を一つのブロックとして、9年間のカリキュラムでの教育や教師の相互協力が中心になっているが、特に、都市部の同和地区に顕著になっている流出による沈滞化を防止する目的と混住化で交流を促すことが同和問題の解決に繋がることから、同和関係者が多数在籍する学校を、一つの学校に小・中学生が通学する、特色ある施設一体型の小・中一貫校としての設立を求めていく。
いじめに関しては、滋賀県大津市をはじめとして、全国各地でいじめによる自殺する児童・生徒が続いたことで、このような悲惨な出来事をなくすために、「いじめ防止対策推進法」が昨年6月に成立し、10月には「いじめ防止基本方針」が策定されているので、地方公共団体と各学校に「いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進する
ための基本的な方針」を定めるよう要請するとともに、併せて、地方公共団体には「いじめ問題対策連絡協議会」の設置を、各学校には「いじめの防止等の対策のための組織」を設置するよう要請していく。
また、いじめ防止のため道徳が重視され、道徳が正式な教科になることから、差別を「しない、させない、見逃さない」ことは最高の道徳だと思われるので、道徳も最大限に活用するよう求めていく。

4.人権侵害の処理及び被害者の救済
   
国家行政組織法の第3条委員会としての「人権委員会」が創設されるまでは、平成15年の3月に20年ぶりに改正された「人権侵犯事件調査処理規程」での対応になるが、差別での泣き寝入りは絶対にさせないとの強い気持ちで、「人権侵犯事件調査処理規程」を有効に活用して救済を図っていく。
多発する学校でのいじめ問題を始めとする様々な人権問題に対処するため、平成25年度からは全国の法務局に3年計画で、企画担当委員として人権擁護委員が常勤する人権擁護体制の強化が図られているので、積極的に人権救済を行っていく。

また、「人権擁護法案」と「人権委員会設置法案」のいずれもが、言論や表現の自由を規制するものだとの批判が巻き起こり、結果的に成立に漕ぎ着けないでいるので、国民の支持が得られるようにするため、人権侵害の定義を誰もが分かり易いものに見直す作業を開始する。

最後に
 

「人権擁護法案」の成立は厳しい状況が続いているが、「障害者差別解消法案」をまとめる過程での障害者団体からの「差別禁止」という文言は使用せずに、国民にとって親しみやすく、社会に受け入れやすいソフトな名称にしてほしいとの意見は、国民とともになくしていこうとする姿勢を意味しており、差別される少数派(マイノリティー)として、国民を差別する者と敵視し、差別される者と差別する者と自ら分断してきた私どもの運動とは大きく違うことを自覚しなければならない。
区別がある限りその属性を偏見(かたよった見方・考え方。
ある集団や個人に対して、客観的な根拠なしに抱かれる非好意的な先入観や判断)で見ることにより差別が生じると思われるが、偏見による差別心を払拭するには、正しい知識を得るしかないが、まずは自分自身に偏見がないかを検証しつつ、自分が住む地域から率先垂範して「人権侵害をしないまちづくり」に取り組み、この「人権侵害をしないまちづくり」を国民とともに広めていく中で、一人々の人権が守られる人権確立社会の構築を目指していく。


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